十世安井算英

 

安井歴代之墓

墓石側面に刻まれた名

　家元安井家の最後の当主・十世安井算英は、弘化4年(1847)九世安井算知の長子として両国薬研堀の屋敷で生まれます。

　算英が生まれた時代の安井家は。優秀な人材が集まり碁家筆頭の本因坊家をしのぐほどの隆盛を誇り、算英は幼い頃より兄弟子たちに囲碁の手ほどきを受けて育ちます。

　10歳の頃には、面倒を見ていた安井門四天王の一人海老沢健造(巌埼健造)が、算英のあまりに稚拙な手に激怒して、師匠の息子であるにもかかわらず手を上げてしまい騒動となったという逸話も残されています。

　安政5年（1858）に父算知が旅先にて急逝したため、算英は12歳で家督を相続し、父と親しかった本因坊秀和が後見人として算英を支援します。

　万延元年(1860)14歳で初段となった算英は、同年に御城碁へ初出仕。翌年には二段、さらに次の年には三段へと昇段していきます。しかし幕末の混乱期のため御城碁は元治元年（1864）に中止となり、その歴史に幕を閉じています。

　幕府崩壊後、算英は明治2年(1969)に本因坊丈和の三男・中川亀三郎の呼びかけで設立された「六人会」に本因坊跡目秀悦、林秀栄らと参加し、明治5年(1872)には五段へ昇段。

　明治12年(1879)には棋界の第一人者、村瀬秀甫と中川亀三郎が中心となり囲碁研究会「方円社」が設立され、算英は各家元と共に例会へ参加します。

　ところが、実力本位を謳う方円社は、本因坊秀悦の病により急遽家督を継いだ弟の十六世本因坊秀元を、低段位のため林門入へお茶を出させるなど格下扱いしたため、反発した林秀栄(秀元の実兄、秀悦の弟)ら各家元が離脱。さらに本因坊家と林家では一門の方円社社員の段位まで剥奪しています。

　早くから父を亡くし苦労を重ねてきた安井算英は、常識のある人情家であったと言われ、家元と方円社が対立していく中、方円社の手合にも参加するなど両者の調停に尽力しています。

　しかし双方の溝を埋めることは困難で、明治17年(1884)には林秀栄が方円社に対抗するため林家を断絶させて本因坊家へ復帰し十七世本因坊を継承すると、算英は調停に疲れ果てたのか、翌年に東京を離れて6年間甲府で暮らしています。

　その間、囲碁界では本因坊家と方円社が一旦和解して合流。十八世本因坊秀甫が誕生していますが、直後に秀甫が病死したため再分裂し秀栄が十九世を再襲しています。

　その後、東京へ戻った算英は、秀栄の支援者であった高田商会の慎蔵・民子夫妻の援助を受けて活動を再開。

　本因坊秀栄の囲碁奨励会、四象会にも参加して、秀栄と二度の十番碁を打つなど精力的に活動し六段へと昇段します。

　しかし、明治36年(1903)算英は門人との対局中に倒れて急逝。算英の子(養子？)昌三は、棋士としては実力不足で、娘も囲碁と関係ない家へ嫁いでいる事から、囲碁家元としては安井家は算英の死をもって断絶しています。